寺嶋陸也氏のピアノコンサートに行きました。動機は(またも)ベートーヴェンのピアノソナタ32番がプログラムに含まれていたからです。
可児亜理さんのときと同じく、私は寺嶋陸也氏のことを知らないだけでなく、このコンサートのテーマである作曲家の林光氏のことも知りませんでした。
今回のプログラムは、後半が80歳を迎えるという林氏の3つのピアノソナタで、前半はその3つのピアノソナタにインスピレーションを与えた作品という、
意味合いでの選曲で、ベートーヴェンのピアノソナタ32番、ヤナーチェクの「1.X.1905」、バルトークのピアノソナタという構成になっておりました。
今まで必ずコンサート最後の曲として聴いてきた32番をコンサートのスタートに聴くというのはある意味新鮮です。
寺嶋氏は私と3つしか年齢が違わず、藝大の作曲科出身だそうです。ベートーヴェンの32番は、どこか曲に未完成の要素を残している気が
してならない私は、この曲を魅力的に弾くには、作曲家、あるいは指揮者のもつ音楽を組み上げる能力か、でなければ祈りの気持ちが加わらなければ
魂が入らないのではないかと憶測していたので、作曲家でもある寺嶋氏がどのように弾くのか興味がありました。
寺嶋氏の32番の演奏の感想は、率直に言って、「悪くはない・・」という印象。曲の構成を意識しているように思えた展開は、さすが作曲家と思う面も
ありましたが、前半の魅力的に聞かせるのが難しい変奏曲の部分は、響きの魅力はあったもののしっとりとした抒情感は不足し、
中盤の早いパッセージでは速さにこだわりすぎか、音が団子になって旋律がよくわからなかったり、指がついてこないところも感じられました。
中盤後半にバスが微妙に上下するところや後半盛り上がるべきところへの高まりの表現も弱いし、トリルは抑制が足りずキツク鳴る感じも気になりました。
いま思い返してみると、寺嶋氏はこの32番について、林氏にインスピレーションを与えた作品ゆえに取り上げたという意図が強く、寺嶋氏本人に
この32番に対する強いこだわりがあったわけではないような気がします。(決して悪い演奏ではなかったですが・・・。)
さて、現代の作曲家の音楽はジョン・ケージ、アルボ・ぺルトくらいしか聴かない私は、このプログラムの前半が終わった時点で帰ることも考えていました。
youtubeで直前に今回のプログラムの予習をした私は、和声と調和を肯定しないタイプの現代音楽を聴く感性を欠く自分を再確認していたからです。
正直、林氏のピアノソナタは3つとも(私にとっては)聴くのがつらかったです。それはピアニストのせいではなく、曲自体と私の相性の問題と思います。
それは私の好きなベートーヴェンの32番にインスピレーションを受け、その断片がちりばめてあった第3番《新しい天使》でも同じ、でした。
しかし、残っていてよかったと思うのは、アンコールで寺嶋氏が林氏の小品の魅力について語り、演奏してくれた3曲が素晴らしかったことです。
特に2番目に演奏してくれた曲は演奏とのマッチングも素晴らしく、この曲が聴けただけでも良かったと感じました。
肝心の曲名を覚えておらず、ここで紹介できないのは私の記憶力の不足で申し訳ないかぎりですが。。